NMB48の現役メンバー、安部若菜が小説に挑み、処女作となる「アイドル失格」を上梓する。この小説を刊行するきっかけとなったのは、2021年に実施された吉本興業とブックオリティによる「作家育成プロジェクト」。安部さん自身のプレゼンと企画書によって刊行が決定。今回、発売を目前に控えた安部若菜にこの気になる一冊について聞いてみた。
ーそもそも「小説」、文字作品にしようと思ったきっかけは?
最初はもともと本を読むのが好きだったというのと、自分の思っていることを文字にするほうが得意だったので、小説を書きたいなと思ったのがきっかけです。
ーいざ文字にしてみようと思った時、戸惑うことはありましたか?
めちゃくちゃありました。文章を書くのは好きだったし、得意だと思ってたんですけど、いざ小説を書き始めてみたら、ただ「歩く」だけの描写でもめちゃくちゃ難しい…。それをどう表現するのか、普段何気なく行う、「水を飲む」ということでも表現するのが難しいんだなという壁にぶつかりました。
ー今回、物語の舞台となる場所はどうやって選ばれたんですか?
「大阪はやめよう」というのがあって(笑)。大阪が舞台だと、NMB48や自分と重ねて読まれてしまうのは嫌だなというのと、東京にはちょっと疎いんですけど、(主人公の一人)ケイタがサブカル好きというのがあって、下北沢がいいかなという風に決めました。あと、DVDや映画が作品の中にたくさん出てくるんですけど、それはすごく厳選しました。結構こだわったところです。
ー映画の選び方の基準は?
ストーリーの流れと似ている映画を選ぼうと思って選びました。『ローマの休日』は立場の違う人と一緒に秘密の恋をするというお話だったり、調べていて「芸能人と出会って恋する」っていう本当にぴったりの映画があったのでそれも入れてみたり。映画の内容を知っていたらより楽しめるものを選びました。もともと自分も映画が好きで、いろいろな作品を観ていたので、知っている映画の中から、思い出して思い出して選びました。
ー書き方のスタイルはどのような形ですか?
基本的にはiPadにキーボードで打って書いていたんですけど、私はすごく手で書くのが好きなので、小説ノートっていうのを作って、展開に困った時となどはそのノートに書き込みながら進めていました。
ー1回ノートに書き込んだものをベースにしながら?
そうですね。膨らませていくって感じです。
ーフレーズなどは降りてくるタイプ?何回も書き直すタイプ?
何回も何回も書くほうです。最初は出てくるフェスの名前も違ったんです。最初に付けたフェス名がほんまに実在するフェスっていうのが途中で判明してしまって、どうしようって必死に考えたりとか。今回、「テトラ」というアイドルグループを登場させているんですけど、そこを決めるのが一番時間がかかりました。
ー「テトラ」のメンバー4人の中で一番書きやすかったメンバー、逆に書きにくかったメンバーは?
一番描きやすかったのは萌です。もともと私がアイドル好きだったんですけど、萌みたいな子がずっと好きで。ツインテールで、ぶりっこやけど気が強いみたいな(笑)。一番キャラがしっかりしていたので、萌の行動だけずっと勝手にすらすら思い浮かんできました。難しかったのは実々花かな。主人公なんですけど、ちょっと自分に似てるところがあるのが実々花で、その分、自分のことを書きそうになってしまったり、自分の感情が反映されすぎるのがすごく難しくて。「若菜じゃなくて実々花」っていうのをめちゃくちゃ気を付けました。
ーフィクションということで、実際に自分が見ているものとの線引きは難しかった?
難しかったですね。やっぱりアイドルをやっている上での経験を生かした作品というのが肝の部分でもあるんですけど、リアルなことを書くから小説が面白いわけでもないので。でも物語として面白いけどリアルさもある、いいバランスで書けたんじゃないかなと思います。NMB48のメンバーにも読んでもらったんですけど、「めっちゃリアル!」って言ってもらえたり、逆に「もし恋愛したらこんな感じなんかな」っていう感想も聞けました。
ー構想してから形になるまでどれくらいの期間がかかった?
一年半くらいかかりました。結構小説の中ではかかってる方なのかなと思います。最初は「吉本作家育成プロジェクト」に自分の企画をプレゼンして、出版社の方に手を挙げてもらうというので選んでいただけて。小説を書きたいと思った矢先にそんなプロジェクトがあったので、運命だと思いました。
ー実際に完成した本を実際に手に取ってみた感想は?
あらためて自分でも読んだんですけど、自分が書いたような気がしなくって(笑)。自分の文章が本になるというのが今でもちょっと夢みたいで、「これ本当に自分が書いたんかな?」って思うところはあります。ちょっと恥ずかしい気もします。
ー原稿で読んでいた段階との印象の違いはあった?
この本の中ではSNSを模したページの作り方をしているんですけど、それは原稿の段階ではなかったので、アイコンも付いて、時間も付いてというのは最初に見た時は感動しました。あと、最後の方に実々花とお母さんと話しているシーンが、一番不思議な気がしました。結構セリフが多いシーンなんですけど、改行の感じとかによって、セリフ続きの部分が本になったらより映えたというか、いいなって自分で思いました(笑)。
ー普段から結構本を読まれるということですが、紙派?電子派?
普段は100%、紙で本を読んでいます。紙をめくる感じとか、本の匂いがめちゃくちゃ好きで。電子版だと、しょっちゅうスマホを触っているのであんまり休憩って感じがしないんですけど、紙で本をを読んでいてたまに顔を埋めたりすると安らぎますね(笑)。懐かしい気がします。
ー新しい本の匂いも癖になりますよね。
分かります。やっぱり紙の良さがあるなと思います。書いてみて思ったのは、紙になった時の形で文字の詰め方とかを決めているので、電子版って文字の大きさとかも調節できてページ数も変わったりするんですけど、このオリジナルの形で読むのが一番いいのかなと思いました。
ー今回、表紙のイメージはご自身でお話した?
書いていただくイラストレーターさんから自分で選んだんですけど、イメージを伝えて、いろいろな候補の案を見させていただきました。主人公がアイドルで、アイドルというキラキラしたイメージが、私の中では大きいんですけど、ちょっと闇のある、影のある雰囲気を出したいなと思っていて、そういう絵が上手な方をまず探しました。何十人と見て、今回書いていただいた方が衣装を書くのも上手で、そういうのもあって決め手になりました。最初は真正面を向いている表紙をイメージしていたので、「横向きはどうですかね?」って言われた時に「横向きか〜」って思っていたんですけど、実際こうイメージの画像を見せてもらった時に、ちょっと何を考えているかわからない雰囲気とか、でも希望なのか不安なのか見る人によって横向きの方が見方が広がりそうだなと思って、表紙を横向きの女の子にしました。あとは本屋さんに並んだ時を想像して、インパクトの強い方を選びました。
ーかなりストレートなタイトルですが、どういう風に決めた?
タイトルも最後まで悩んで、情報解禁の一週間、数日前くらいにやっと決定したんです。アイドルというのを分かりやすく伝えるため、「アイドル」という言葉は絶対入れようっていうのがまずあって。でも明るいアイドル小説じゃないので、アイドルとは正反対の闇のある言葉を並べようと思った時に一番しっくり来たのが「失格」でした。本当にたくさん案を考えたんですけど、最終的に一番最初に思いついた案に戻ってきました。いろいろ考えたおかげで「これが一番だ!」って改めて気づけました。
ー裏話としてあれば…担当編集者さんと揉めたり?(笑)
本当に揉めてなくて(笑)。でも、一番大変だったのは、この小説では(ケイタと実々花の)交互に物語が進むんですけど、全部書き上げたタイミングで「時系列を変えましょう!」と言われた時は愕然としました。半分くらい丸々話を書き換えるくらいの変わり方があったので、その時は一回絶望しました(笑)。でも、それでより読みやすくもなって、合わせて話をこう変えようとかいろいろ考えられました。実々花の設定も若干変わったり、より詳細に深く書き換えました。書きながら今が何月なのかわかんなくなって、そこが難しかったです(笑)。
ー11月18日の発売が控えていますが、今の心境は?
不安ですね。18日はすごく叩かれるんじゃないかっていうドキドキもあって(笑)。やっぱアイドルとファンの恋愛っていう、内容が内容なこともあって、ファンの方がどういう風に捉えられるのかっていうのと、アイドルが書いた小説っていうことで一般の方々にもどう受け止められるんだろうっていうのは不安があります。でもやっぱり「どうだ!書いたぞ!」っていう思いもあるので、早く読んでほしい気もします。
ーTwitterでは、前半の部分を少しだけ先行して公開していますね。リアクションはあった?
結構「びっくりした」っていうリアクションが一番あって、私がどういう文章を書くかもわからない状態だったので、「やるやん!」みたいなのが多かったです。あとそれを見て渋谷凪咲さんが読んでくださったんですけど、「めっちゃ小説やん!」って言われて(笑)。「ほんまにわかぽんが書いたん?」って言われました。でもそう思ってもらえるようなのが書けたのかなと思うと嬉しいです。
ーこれから手に取ってくださる方に向けてメッセージをお願い致します。
やっぱりアイドルが描くアイドルとオタクの恋愛っていうのがテーマで一番見られるところだと思うんですけど、中身は、やりたいことや夢を追っている一人の女の子と男の子のお話なので、そういう部分はきっと共感してもらえると思うし、二人ともちょっと自信が無いんですよ。私もすごく自分と似ている二人だと思いながら書いていて、そこも共感する点があったら嬉しいなと思います。オタクをしたことがない人でも推しができた気分になるし、アイドルをしたことがない人もアイドルになったような気持ちで読んでもらえるんじゃないかなと思います。
ー最後に、今「もう1冊やりましょう!」と言われたらやる?少し考える?
即答で「はい!」って言います。
PROFILE
あべわかな 2001年7月18日生まれ 大阪府出身
NMB48 チームM 副キャプテン
https://twitter.com/_wakapon_